2018/04/05:わかりづらいところを更新
遅ればせながらこの曲を聴いたのだが、メロディに対して非常に興味深く思った。
早速、アナリーゼというには大げさだが分析を行ったので考察を記しておく。好き・嫌い、いい・悪いのような下手な賞賛や批判の言葉は使わずに書きたいと思う。
基本情報
作曲:バグベア
編曲:久下真音
123 BPM
4分の4拍子
嬰ト短調
総論
メロディは、
- Aメロ、サビの頭の順次進行
- 調にない音が出てこない
という単純な音階の使用に対して、
- シンコペーションを多用したリズム
に特徴があるといえる。私は、いい曲の多くはシンコペーションが頻出するという考えを持っており、この曲も名曲たる条件を備えているといえる。しかし、
- 女性ボーカルにしては低い音域のメロディ
- 同様のメロディの単純な反復が少ない
ことも特徴であり、特にサビの頭でこれだけ低い音域を使うのは「サビでは高い音域を使う」というJ-Popのセオリーに反する。また、繰り返しが少ないということは聴き手の記憶に残りづらいということであるが、それにもかかわらず鮮烈な印象を与える。「バグベア、何者だ?」という感じである。
編曲の久下真音氏とはともにハイキックエンタテインメント*1所属である*2ことを考えるに、この完成度の高さは彼によってかなりアレンジされた状態で上がってきたからではないだろうか。
[追記 2018/04/05] ソニー・ミュージックパブリッシングを経て、現在はフリーで活動されているようだ。
サビ、Dメロでは同主調の変イ長調へ転調する。変拍子が取り入れられており、Bメロの8小節目では4分の7拍子となる。
アレンジでは、左右でリズムの異なるアコースティックギターとハンドクラップが特色である。
(イントロのコード進行が『冷たい花』と同じだ。)
Aメロ
Aメロについては
|G-AB--C-D--D--D-|F--E--D-D--C--r-|
(調号省略、rは休符)
で始まる4小節をモチーフとした8小節を2回繰り返したものと理解できるが、後半4小節は
(G-)|G--B--C---D-r---|~
と異なり、聴く者を惹きつける。これは2番のAメロを基本形としたほうが理解しやすい。想像でしかないが、1番の後半4小節は後から付け加えられたのではないだろうか。2番の
あ-あ
に対し、
1番を
あ-あ'-あ-あ'
と解釈したいのだ。そうでなければ、バグベアは長いメロディをまとまった形で作り出す力があるということだ。
アレンジ面では、1番と2番のいずれも2回目からドラムが入り前進感が加わる。
Bメロ
特徴的なAメロ、サビと比べると普通である。前半の「ああ、こいつか」というコード進行をみてもそうだ。3+4の7拍子以外はだが。変化を狙い、あえて抑えめにしているのだろう。メロディやコード的に転調への伏線もない。強いていえば、3-3-2-3-3-2拍のリズムがモチーフか。
サビ
この記事を書くきっかけとなった異常なメロディがサビのそれである。
|AGA-BB-C-D-E--EE|-E-EEFE-F-F-F-A-|~
導音の業がなすものか、最低音がサビで出てくるのだ。一方で、サビの6小節目途中から一気に駆け上がり最高音まで達する。
~EFF-G-|A-AAA-E-r-E-D-C-|B---B-A-----r---|
ところでこのメロディ、Aメロのところでも書いたが8小節もの長さになっていて作曲面でのそれ未満の区切りがよくわからない。1小節ほどの短いメロディを展開させてある程度の長さにすることは優れた作曲家でも行っていることだが、するとやはりバグベアは長いメロディを思いつけるということになる*3。さらに、16分のシンコペーションの部分と単純な8分の部分が対比となっている変化に富んだメロディにもかかわらず、自然にまとめ上げている。他の芸術と同じく誰も思いつかないものを作り出すことを才能というのなら、バグベアのそれは相当なものといえるだろう。また、このような特殊な曲をデビュー曲にもってくるというマネジメント側の勇気というか審美眼も無視できない。
Dメロ
Aメロ、サビに比べると普通である。
おわりに
ただ、ギミックに富んだ音楽はソルフェージュをしていて楽しいが、はたしてシンプルな音楽と比べて優れているとまでいえるのだろうか。もしそうなら、現代音楽がその名の通り現代の音楽となって流行しているだろう。