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2017年最高の曲を発表します。欅坂46『避雷針』です

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誇張でもなんでもない。the brilliant green以外でこれほどまでにエモい*1楽曲に出会えると思わなかった。まるで『Round and Round』のような…

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避雷針

避雷針

  • 欅坂46
  • J-Pop
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 

基本情報

  • 作詞:秋元康
  • 作曲:ナスカ
  • 編曲:野中“まさ”雄一
  • BPM:128
  • 4分の4拍子
  • Cマイナー

 

楽曲レビュー・分析

曲全体で目を引くのは転調の構成である。1番のサビで半音上のC#マイナーに転調するが、そのまま戻らず2番に入ってもC#マイナーを維持する。つまり、2番のAメロとBメロは1番に対しトランスポーズしているのだ。ラスサビで半(全)音上に転調する曲はあまたあるが、このような構成は珍しい。2018年4月1日放送の『関ジャム』では39種類ものコードを使用しているとしてこの曲が取り上げられたが、それだけの数になったのはトランスポーズによるものが大きく、実質的にはずっと少ないことは言及しておく。また、Dメロでは一時的にCマイナーに戻る。

コードは基本、2拍ごとに進行する。同じく2拍を基本単位としている4つ打ちのリズムトラックとの相性は抜群だと思う。4つ打ちは頭では好きではないと考えているのであるが、この前進感、ノれる感じは認めざるを得ない。対して、Aメロ、Bメロではコードチェンジを1小節ごととすることでスピード感や盛り上がりに変化をつけているところがうまい。

荒ぶるスラップベース。これが特に、スタティックなバッキングのAメロ、Bメロで映える。

ギター・ロック主義者である私であるが、この曲によってピアノがフィーチャーされた曲の良さにも気付かされた。何かすいませんでした。以前、こんなことを書いた。

yaritakunai.hatenablog.com

さて、ピンと来なかったならどういう音楽性がいいかというと、もっとわかりやすい方がいいということだ。『世界には愛しかない』以前の路線に戻してほしい。基本は、アコースティックギターでリズミックな曲がいい。その点、この曲はクリアしているけど。

以前も言ったが、『サイレントマジョリティー』がそうであったようにエレクトロ(本当は好きじゃない)でもいいのよ。ノレるバッキングと感心するメロディーがあれば。リスナーが引いてしまう前衛的な枠組みや病んだようなダンスはいらない。

「4つ打ち」「非ギター・ロック」「エレクトロ」「非バックビート*2」。私の好みとはいえない特徴をいくつも備えていながらも大好きにさせる。もう幼くない私の好む、音楽性の壁をブチ破る。そんなパワーがこの曲にはある。

Bメロやサビでは、ボーカルラインにナスカお得意の「ラップ」あるいは「たたみ掛ける速いメロディ」が登場する。同者による『エキセントリック』『危なっかしい計画』(いずれも好きである)のように。どれほど速いかというと1小節まるまる16分音符で埋め尽くされている小節もあるくらいだ。以前、バンドとしてのナスカの曲を掘ってみたが普通のバンドサウンドであった。このような新奇なメロディは一体どこからやってきたのであろうか。ボカロやアニソンの影響といえなくもないが、欅坂46ということを考えると『世界には愛しかない』のポエトリーリーディングの系譜と考えたくなる。着想元はどうあれ、バグベアといい、男女2人組の作曲家には奇才が多いのだろうか。今や洋楽を中心に複数人による共同制作は珍しくない。発想のミクスチャー、他者とのシナジーが今までにない作品を生み出す時代に突入しているのかもしれない。

 

イントロ

始まりから名曲感を感じさせるイントロは、対象をどのアーティストに拡げても傑作だと思う。

キーが違うため始めは気づかなかったが、コード進行はサビの前半を用いている。

 

Aメロ

2番でのアクセントの変化を評価したい。1番では、以下のように1拍目に強アクセントが置かれている。

B|C-r-C-B-C-DE--B-|C-r-CBCBCCDE--B-|C-~(調号省略、rは休符)

しかし、2番の2回し目である。休符を音で埋めることで1拍目のアクセントが薄れ、太字部分に絶妙なヌケ感が生まれていないだろうか。

B-|C-C-C-BBC-DE--BB|C-C-C-BBC-DE--~

ここにたまらなさを感じる。

 

Bメロ

セリフの後のメロディ。音高が高い部分のタイミングが16分クっているリズムがいい。

 

サビ

アウフタクトから始まるサビは非常にキャッチーだ。4分音符・8分音符で構成されたメロディは、つまり4つ打ちのビートと完全に同期する。それにより、行進のようなわかりやすいリズムが生まれている。

そんな親しみやすい前半とは対照的に、「ネガティブ ネガティブ ネガティブ」から一変する。主にミの同音連続で構成される早口のメロディ。それらの合わせ技が聴く者に鮮烈な印象を残す。

 

Dメロ

最高潮となるラスサビに向け、Dメロはセリフ主体の短めなメロディ。嵐の前の静けさか。

ここではあえてDメロ直前を取り上げたい。転調への布石となるコード進行も見逃せないが、打ち込み感丸出しなベロシティのスネアの連打が気になる存在。最初の頃はそのチープな感じを残念に思ったのだが、そうじゃないのもなんか違うと今は思う。

 

アウトロ

Iのメジャーの和音一発で終わるアウトロは、まるで雷雲が晴れるかのようだ。

 

歌詞

私には異例のことだが、歌詞についても取り上げたいと思う。セリフのおかげだろうか、普段歌詞が頭に残らない私がこれほど“気になってしまう”作品は初めてだったし、浅学にも作詞家・秋元康を凄いと思ったのも初めてだった。

陰鬱で退廃的だが、それでも人を想う様子は、the brilliant green川瀬智子の書く『長いため息のように』を連想させる。その一方、川瀬独特のあえてはっきり言わない、抽象的な歌詞に対し、この曲はちゃんとプロットを描写しているところが相違点として挙げられる。

以下、気に入ったところをピックアップ。

遮断機 降りたままの開かずの踏切みたい
心を閉ざして僕をいつまで待たせるんだ?
君っていつも何か言いかけて 結局 言葉飲み込むよ

警報機 鳴りっぱなしで意思なんか通じない
上下線 何回 通り過ぎれば開くんだろう?
ずっと前から知っていたはずさ 電車なんか来ないって…

裏切られる感じすこ。わかっているのにそれでも待っている経験。あなたもないだろうか?

一人が楽なのは話さなくていいから
わかってもらおうなんて努力もいらないし…

おま俺。

いくつの扉を閉めたり鍵を掛けて引きこもってじっとして
ただ儚すぎるこの若さ萎れるまで
使い切れず持て余す時間 過保護な夢を殺すだけだ

わかりみが深い。“過保護な夢”。修飾語と被修飾語の組み合わせがありえないのに意味が伝わる。

(信じることは裏切られること 心を開くことは傷つくこと
落雷のような悲しみに打たれないように…)

心を閉ざしがちなのでわかる。

どんな理不尽だって許容できるさ
気配を消して支える
重箱の隅を突かれたって
僕が相手になってやる
平凡な日々を今約束しよう
ここにあるのは愛の避雷針

泣ける。

他にも、“フリマ行き”とか少ない文字数でよくわからんのにわかる歌詞を書けるのがうまいと思いました(小並)

避雷針 - 欅坂46 - 歌詞 : 歌ネット

 

ステージパフォーマンスの感想

ステージパフォーマンスについても言及せざるを得ない。ダンスというよりまるで演劇のような振り付けは、集団と孤独の対比を表現している。衣装や演出は中世ヨーロッパの黒魔術を彷彿とさせる。

センターの平手友梨奈と、その他のメンバーは別々に行動する。平手以外のメンバーは終始集団で行動するが、平手は終盤まで交わらず周りをただ彷徨うだけ。

最初の、集団が平手の魂を取り込むような仕草は何を表しているのだろう。つづいて、集団は2列となり行進し、最後尾の避雷針・志田愛佳と小林由依が平手を後ろ向きに引きずる。集団は電車を表現しているのか。そして、引きずる行為は「集団」に復帰させようとしているのか。

“どうでもいいけど…”の振りかわいい。ハイライトは、“チクタクとただ繰り返す”集団の間を平手が走り抜け、志田のもとに飛び込むお姫様抱っこのシーン。エモい。

2番のAメロで平手も加わり一列になるが、すぐにどこかへ行ってしまう。集団のポーズは避雷針や雷を表しているのだろうか。Aメロの2回し目では唯一、平手が歌うシーンがある。その部分の歌詞と重ねると、「君」の心情の吐露を表していると考えずにいられない。

なんと、2番のBメロの振り付けは1番のサビと同じである。ダンスについてはよく知らないが珍しいと思う。

Bメロの最後で集団は走り去ってしまうが、志田だけは留まる。そして、そっと肩を抱き、平手を皆のもとへ連れて行く。ラスサビでついに一つになるのだ。感涙ものである。しかも、ラスサビでV字の陣形をとる軍団の先頭、率いているのは平手。なにこの展開。ジャンプかよ。“僕が相手になってやる”の感情が現れた動作といい、平手が手をクイッとやって皆で去っていくラストといい、ラスサビはとにかくかっこいいのである。

 

あとがき

歌詞の世界観を存分に表現したパフォーマンスは魅力的である。だが、今泉佑唯の一時活動休止といい、事情は不明だが平手や志田の不在といい、これまでのメンバーの状態を考えると若い子にあまり負担のあることはさせてほしくない、ということは指摘しておかなければならない。

 

次にレビューした欅坂46の曲

yaritakunai.hatenablog.com

風に吹かれても(Type-C)(DVD付)

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*1:音楽用語として。近年、某が言う「もののあはれ」とかいう意味ではない。右記は三省堂による説明。(形)〔emotionを形容詞化したものか〕 〔音楽などで〕接する人の心に、強く訴えかける働きを備えている様子だ。「彼女の新曲は何度聴いても━ね」, http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/topic/shingo2016/2016Best10.html

*2:リズムトラック以外は1、3拍目にアクセントが置かれている