まえがき
ピアノ曲でない曲をピアノで弾くとき、どうしても避けられないものにアレンジがあります。原曲のジャンルにもよりますが、なかなか難しいと思います。理由の一つは、主旋律を含む多数のパートからうまく音を選んで、わずか両手の10指で演奏しなければならないことです。そのため、みなさん工夫して独自の方法を編み出しているようです。
簡単で、よく使われている方法としてコード奏法があります。原曲のコードをとってきて伴奏として主旋律と一緒に弾く方法です。特別なアイデアを必要とせず、ほとんどが和声で作られている現代の音楽には有効です。この記事では、このようなJ-Popやロックなどのポピュラー音楽を対象とします。
問題は、コードをどのような形式(リズム、ボイシング、アルペジオ等)に展開するかです。普通に考えれば、あるいはピアノを習っていた方にとっては、次の例が真っ先に思い浮かぶと思います。
4拍子
譜1 ドソミソドソミソ
3拍子
譜2 ドミソ
譜3 ド[ミソ][ミソ]
メロディアスな曲だと合うこともありますが、
- 童謡っぽい
- 幼稚
だし、ビートの効いた曲だと絶望的にダサくなると思います。
私自身、ロック系の曲(というかthe brilliant green)を弾こうとしていましたが、そういうことで悩んでいました。ピアノアレンジやバッキングに関する本やサイトは数あれど、ロック(っていうかブリグリ)にしっくりくるアレンジにするにはどうすればいいのかわかりませんでした。おそらく、原曲重視である以上いろいろ試してみるしかなく、体系的に教えられないからだと思います。音域の広い分散和音からなるゆったりとしたピアノらしいアレンジが好きならそれでもいいのですが、私はイヤです。結局、自分で試行錯誤するしかありませんでした。言うまでもなく完璧、最高などこれっぽっちも思っていませんが、ブログネタの一つとして私なりの方法を書き記しておこうと思います。
何が問題か
譜1-3のような伴奏では、
- 音が濁りやすい
- リズムが単調
です。前者は、使う音域が狭いからです。合唱の伴奏のようにメロ無しならともかく、メロディで音高を制限されたソロでの演奏には常に付きまとう問題です。後者は、伴奏を同じ音価で刻んでいるからです。それに結局、両手で弾けっていわれてもどうしたらいいかわからないですよね?
基本
まず、(普通によくやる方法ですが)両手で伴奏します。ボイシングがオープンになり音が濁らなくなります。できるだけ広い音域で和音を鳴らすために主旋律をオクターブ上に逃がすこともありますが、かわいくなるので私はやりません。陰鬱な雰囲気も出したいからです。
なぜ現代のほとんどの音楽にドラムスが入っているんでしょう? 私は重心の移動が生まれるからだと思っています。ドラムスの演奏は、いろんな音価、音の高低で構成されています。それによりタメと動きが生まれます。リズムにメリハリができ、ノレるようになります。そこで、ドラムスを参考にしたリズムを取り入れます。
以上を踏まえ、次のような役割分担をします。
右手:メロディ、コード、ドラムス(スネア)
左手:ベース、ドラムス(キック)
両手でドラムスをマネすることで重心の移動が生まれます。さらに、このような制限をすることで必然的に演奏の自由度が減ります。そのため、形式的に伴奏を組み立てることが可能になります。
あと、楽譜を書きましょう。シンコペーションの多いメロディだと、どこで打てばいいか結構難しいです。それに、どこに音を詰められるかとか把握しやすくなります。
主旋律とコード
準備として、歌モノならボーカルと、ボーカルのいないところでの目立つメロディ(イントロ、ギターソロ等)、そしてコードを採ります。バンドスコアを買っちゃうとピアノ譜買った方が早いので耳コピしましょう。
奏法
よくある8ビートのドラム譜を見てみましょう。
譜4 8ビート
こんな感じをピアノで再現します。ドラムスを基準としているので、ほとんどのポップやロックで使える方法です。
左手
左手は、ベースラインを弾きます。ベースがベンベン弾いているからといってピアノでこれをやっちゃうとクソつまんないのでダメです。キックのタイミングでベースを弾きます。あと、メロディと違って下に逃がすのはOKにしています。重厚感も増しますし。
右手
主に、右側の3指(3、4、5)でメロディを弾きながら1、2指でコードを弾きます。コードの構成音は、メロディより高くならないように高い方から1、2音選ぶだけです。転回形は気にせずOKです。手の大きさにもよりますが、7thやテンションがあったらそれを優先します。コードは、スネアのところで打ちます。いわゆるバックビートの形式になり、ポップ、ロック感が増します。
基本の演奏例を示します。
譜5 基本形
左手はキックのタイミングを中心に打っています。2、4拍8分裏で打っているのは、ぶっちゃけやってみての結果です。ないとタメ感が強くなりすぎるし、何より弾きやすいからです。右手はスネアの気持ちで打ちます。構成音は、メロディがコードトーンでないときは気をつけますが、音域が高いので長2度くらいはメロディとぶつかってもOKです。
シンコペーション
おそらくシンコペーションしているところはキックも付いてくるので大丈夫だと思いますが、忘れずに食わせましょう。
譜6 シンコペーション
3拍目が8分食うパターンです。あと、左手もキックに合わせてアクセントを入れています。
フィル
ドラムを基本としたリズムとシンコペーションさえちゃんとしとけばなんとかなりますが、曲全体でマンネリ感を感じるときはフィルも模倣しましょう。基本通り、キックとスネアを参考に。タム回しは、無視するかベースを動かすかな?
ドラムスのないところ
ドラムスのないところでは、すべての制限から解放されます。両手をふんだんに使っていかに原曲を再現しているか見せつけてやりましょう。
メロディのないところ
ボーカルが休符のときは原曲のフレーズを引用するなどして音を埋めるようにしましょう。長い間これといって目立ったメロディがないところ(イントロ、間奏等)で基本通りドラムスを中心に組み立てるか各パートの旋律を重視するかは、原曲の雰囲気で決めましょう。